| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-217 (Poster presentation)
人工構造物は生物多様性の損失を招く一方で、失われた生息地の代替にもなり得る。今日、農地化により面積および質の劣化が著しい湿地生態系において、連結性の維持された人工池が代替生息地として期待されている。過剰な連結性は、α多様性を高める一方で、時に生息地間の交流頻度が増すためにβ多様性を減少させる。このため、人工池の設置・管理による効率的な生物多様性保全のためには、αおよびβ多様性それぞれと人工池間の連結性の程度との関係を考慮することが求められる。しかし、これまでの数少ない人工池を対象とした研究は、植物や微生物等の特定の分類群に知見が偏っている。そこで本研究では、人工構造物を用いた効率的な生物多様性保全を目的に、人工池間の連結性が魚類のαおよびβ多様性に与える影響を明らかにする。
北海道東部の酪農地帯に設置された排水路内に存在する21の水質浄化池を対象に、魚類群集を調査し、グラフ理論に基づく連結性指標(dIIC)を算出した。加えて、各池のDO、EC、硝酸態窒素量、亜硝酸態窒素量、アンモニア量、最高水温、水深も計測した。各池のαおよびβ多様性と関係する要因は異なっており、α多様性にはdIIC、DO、水深、そして硝酸態窒素量が正の関係を示した。一方で、β多様性にはdIIC、DO、水深が負の関係を、最高水温が正の関係を示した。このことから、池間の連結性とαおよびβ多様性との関係は、魚類においても他の分類群と類似することが示唆された。本研究の結果は、多様性の両指標に配慮した保全計画において、各池の連結性強度に異質性をもたせた池ネットワーク管理が重要であることを示す。上記結果に加え本発表では、現在同調査地域内において土砂堆積によって浄化池としての機能が失われている14の人工池を対象に、今後の魚類多様性に配慮した人工池管理のあり方についても考察する。