| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-224 (Poster presentation)
エンビセンノウLychnis wilfordii(ナデシコ科)は,日本(北海道,青森,長野),韓国(江原道),中国東北部(吉林省),極東ロシア(沿海地方)の湿性草地に生育し,日本(VU)と韓国(EN)で絶滅危惧種に指定されている.本研究では,(1)種の分布全域の遺伝構造の解明と進化的重要単位(ESU)の検討,(2)北海道内の遺伝構造と管理単位(MU)の検討,(3)植物園で保有する由来不明の生息域外保全株の由来推定,(4)生息域外保全株を消失した由来集団へ植え戻す計画の立案と実施の検討,(5)保全の重要性を伝える生態展示の実施,を行った.
このうち,(1)では核SSRと葉緑体塩基配列データに基づき,東北アジアの地理的遺伝構造の解明と分布拡大シナリオの推定を行った.その結果,およそ5クラスター(北海道,青森・ロシア沿海地方,中国東北部,韓国,長野)が認められ,遺伝的多様性は東北アジア大陸部で高く,日本で低かった.北海道と沿海地方北部,長野と韓国および沿海地方南部の集団がそれぞれ遺伝的に近縁で,一方,北海道と長野の集団間には比較的大きな遺伝的分化が見られた.本種は東北アジア大陸部を祖先地域とし,ロシアから北海道への北ルートと朝鮮半島から本州への南ルートの2ルートで,更新世中期以降に日本へ進入したと推察された.種の分布拡大ルートの両端にあたる北海道と長野の集団は異なるESUとして区別するのが適当である.
また,(2)では北海道全12集団のサンプルを用い,核SSRにより遺伝構造を解明した.北海道の集団は3クラスターに分かれたが,集団の地理的配置と相関はなく,近年の開発による湿地減少に伴い大きな一つの祖先集団が分断化したと考えられる.さらに,12集団中5集団で対立遺伝子が固定しており,自殖・クローン繁殖で集団が維持されていると考えられる.従って,北海道集団は単一のMUとするのが適当である.