| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-234  (Poster presentation)

環境DNAメタバーコーディングによる森林の哺乳類相調査 -絶滅危惧種ニホンカワネズミの生息確認-

*米澤悟(京大農), 潮雅之(京大生態研セ, JSTさきがけ), 高柳敦(京大農), 齊藤浩明(京大理), 宮正樹(千葉中央博), 井鷺裕司(京大農)

 ニホンカワネズミは39都府県でレッドリストに掲載されている日本固有の半水生哺乳類である。その保全には分布情報が重要だが、本種は体長10 cm程度と小型かつ夜行性で素早いため直接観察は困難である。また、カメラトラップによる調査には本種の行動に関する専門知識が必要となる。
 近年、環境DNAを用いた非侵襲的で効率的な生物の分布調査が多く行われ、水中の環境DNAの分析によって水生生物だけでなく水に接触した陸上動物も検出できることが明らかになっている。本研究では、森林の渓流中の環境DNAを分析することでニホンカワネズミの存在が検出可能かどうか、また検出の有無の時間的な安定性を検証した。さらに、環境DNAによってニホンカワネズミの生息が示唆された渓流ではカメラトラップを設置しその生息の確認を試みた。
 京都大学芦生研究林内でニホンカワネズミの目撃情報がある3渓流を含む14地点で採水を行い、哺乳類全体を対象とするユニバーサルプライマーで環境DNAを増幅し、メタバーコーディングを行なった。その結果、目撃情報のある3地点中2地点からニホンカワネズミの環境DNAが検出された。検出された2地点でカメラトラップによる調査を行なった結果、両地点でニホンカワネズミの撮影に成功した。環境DNAによる効率的な分布調査とカメラトラップ等による従来型の調査を組み合わせることでニホンカワネズミのより詳細な生態情報を得ることができるだろう。また、同じ調査地で10分毎に採水し環境DNAを解析した結果、ニホンカワネズミの環境DNAの有無は短時間で変動していた。このことから、対象種が活発な時間に採水することで検出可能性が高まるかもしれない。さらに、今回の環境DNA分析ではニホンカワネズミ以外に5種類の哺乳類を検出しており、本研究と同様の手法で様々な森林性の哺乳類の分布調査が可能ではないかと考えられる。


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