| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-236 (Poster presentation)
生息域外保全の目的の1つは,野生復帰のための供給源を保存することにある.しかし,その方法によっては,遺伝的劣化をもたらし, 野生復帰に適さない個体群に改変する懸念がある.特に,生息域内の個体群が消失した野生絶滅種においては,種の存続にも関わる重要な問題となる.
野生絶滅種コシガヤホシクサ(ホシクサ科)では,1995年の野生絶滅以降,生息域外でのみ個体群が維持されてきた.これまでに,本種の生息域外保全環境下では,送粉者の制限などにより自殖が促進される傾向にあることが明らかになった.さらに,種子重量および水中環境での生存などにおいて近交弱勢の影響が検出された.また,栽培個体群の形質が元の野生個体群と分化する例が複数の植物種で報告されており,水中と湿地上いずれでも生育が可能な本種においては,栽培環境(水中または湿地)の均一化が,野生復帰地における適応度の低下に繋がる可能性がある.
そこで本研究では,保全管理下での自家および他家交配と,特定の水位環境に着目し,これらの継続的実施が本種の適応度に与える影響を明らかにすることを目的とした.
交配実験では,2015年から自家および他家交配を繰り返して得られたF2世代の種子を,湿地環境で播種し栽培した.栄養成長期(5-8月)に,発芽個体数,生存個体数,葉枚数,最大葉長,最大ロゼット長を,繁殖期(8-9月)に,花茎数,雄花数,種子期(10月-)には種子数,種子重を計測した.水位環境実験では,湿地,水中,水位変動区を設置した.水位変動区は野生復帰地の環境に準じて,水中環境を基本とし,6月と7月に各1週間湿地環境に変化させた.
交配実験において,これまでに解析の終了した栄養成長期中の計測項目においては,交配様式による差は顕著ではなかった.F1世代における先行研究の結果では,最大葉長や葉枚数は自家交配で有意な差が示された.今後は繁殖に関するデータを用いてより詳細に比較を行う予定である.