| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-242  (Poster presentation)

遺伝情報を用いた青葉山スギ天然林保全

*ONUMA, Yunosuke(筑波大学), UCHIYAMA, Kentaro(森林総研), KIMURA, Megumi(森林総研, 林木育種センター), TSUMURA, Yoshihiko(筑波大学)

スギ(Cryptomeria japonica)は日本の林業樹種のなかで最も重要な種であるが、その天然林は有用材であるために多くは既に伐採されてしまった。現在のスギ天然林の分布は最終氷期の逃避地から拡大したものである。花粉分析の結果から、大きな逃避地として伊豆半島周辺、若狭湾沿岸から隠岐の島、室戸岬及び屋久島が挙げられる。これらの逃避地のうち若狭湾に面する沿岸部のみで天然林が見つかっていなかったが、3年前に若狭湾沿岸の福井県青葉山にて天然スギの可能性がある個体群が見つかった。そこで、本研究では青葉山におけるスギ個体群について生育状況や樹齢・遺伝学的解析を通して天然個体であるかの推定を行い、遺伝情報に基づいた保全策の提案を行うことを目的とした。
 青葉山において戦後の拡大造林以前から存在していると思われる胸高直径(DBH)60cm以上(推定樹齢100年以上)でかつ人工植栽ではないと思われる198個体を調査対象とし、位置情報の調査、DBH測定を行った。38個体は年輪コアを抜き樹齢を推定しその結果から全個体の樹齢推定を行った。採取した針葉からSNPマーカー249遺伝子座、核SSR8遺伝子座、EST-SSR14遺伝子座を対象に遺伝子型決定を行い、遺伝構造解析、遺伝的多様性解析、近縁性解析を行った。
 遺伝構造解析の結果、198個体のうち、139個体がウラスギ系統、59個体がオモテスギ系統となった。生育状況なども考慮しウラスギ系統の139個体は天然個体であると考えられる。59個体のオモテスギ系統の多くは特定の谷筋に集中して分布し樹齢もほぼ同じくらいであることから、特定の時期に一斉に植栽されたと考えられる。近縁性解析の結果、伏条更新により繁殖している個体も見つかった。ウラスギ系統のうち、推定樹齢200年以上の老齢個体は遺伝的多様性も高く最優先に生息域外保全をすべきであり、見つかった天然個体群は生息域内保全区を設定し保全すべきであると考える。


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