| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-247  (Poster presentation)

生息地を拡大するモツゴと喪失するシナイモツゴの低酸素耐性と水流耐性の比較

*三村詩織(信大院・総合理工学), 中野繭(JSPS), 高田啓介(信州大・理)

 外来生物による侵入は、在来の生物多様性と生態系の機能に劇的な変化をもたらす。そのため、侵略成功の要因や、その外来種の特徴について関心が持たれてきた。
小型コイ科魚類であるモツゴPseudorasbora parvaは西日本、中国、韓国原産であるが、近年、コイ等の種苗に混入し、わずか数十年のうちに平野部から里山までの幅広い水域に定着した国内外来種、さらには東ヨーロッパなど32か国へ広がった侵略的外来種として警戒されている。一方、東日本の固有種である姉妹種のシナイモツゴP. pumila
(以下シナイ)はモツゴと容易に自然交雑するほど共通した生態的特徴を持つにもかかわらず、現在は里山のため池でしかみられない絶滅危惧種(ⅠA類)である。
 本研究では、モツゴは流水域、シナイは止水域により適応していると仮定し、行動実験によって低酸素耐性と流水耐性を比較した。低酸素実験では、供試魚を投入した小型水槽の水面をラップで覆い、水中の溶存酸素量を15分ごとに測定した。 その様子をビデオカメラで撮影し、鼻あげが観察された時点での水の溶存酸素量を測定した。流水実験では、楕円形の卓上水流装置において、魚の上下流への動きを15分間撮影した。
 低酸素実験では、鼻あげ時の水の溶存酸素量は、両種とも体重と負の相関が認められた(シナイN=7, モツゴN=38, p<0.05)が、種間に有意な差は認められなかった。流水実験では、シナイは流水中でも定位して泳ぐ傾向がみられた一方で、モツゴは上下流両方向に頻繁に、かつ長距離移動する行動が観察された。 (シナイN=38, モツゴN=24, p<0.05)。
 以上より、モツゴとシナイでは低酸素耐性に有意差は認められないものの、流水に対する行動応答が異なることが明らかとなった。モツゴは水流の抵抗を逃しながら遊泳できる一方で、シナイは流されないよう体勢を維持するのみであることから、モツゴはシナイよりも流水中を移動し生息域を広げる分散能力に長けていることが示唆された。


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