| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-248  (Poster presentation)

草原として都市に残存する空き地の価値評価

*高橋栞(東邦大学理学研究科), 徳江義宏(日本工営(株)), 今村史子(日本工営(株)), 上野裕介(石川県立大学), 西廣淳(東邦大学理学部)

 草原として都市に残存する空き地には、生物多様性の保全や生態系サービスの維持において重要な場所も多い。そのような空き地を保全・管理する計画の立案に資するため、千葉県白井市を対象に、空き地の生物多様性と生態系サービスを評価・マップ化し、住民のニーズとの整合性を明らかにした。対象地とした千葉県白井市は、1980年代以降のニュータウン開発に伴って宅地開発が進んだ地域である。この地域は江戸時代から明治時代には馬の放牧場として草原が維持されていた場所であり、草原が地域の生物多様性保全上重要な自然環境である。
 まず、空き地を農地やその他の利用が見られない場所として定義し、リモートセンシング調査によって確認された1047ヶ所の空き地を、GISを用いてデータ化した。次に、空き地に期待される生態系サービスとして、水源涵養機能、気温緩和機能、アクセス性を評価した。また生物多様性保全上の価値を、草原性の植物を指標種数から評価した。これらの生態系サービスをマップ化した。サービス間の相互関係を分析したところ、統計的に強い相関関係は見られなかった。指標種が確認された保全上重要な空き地は12ヶ所であった。次に、千葉県白井市と印西市を対象にWebアンケート調査を行い、地域の自然環境における、子どもの遊び場としての利用可能性、維持管理活動への参加意欲、維持管理への支払い意志額などを質問した。その結果、草原は子どもの遊び場としてのニーズを満たすこと、維持管理には一定の支持が得られる可能性があることが示された。
 草原環境の残る空き地の持つ機能を確認し、活用計画を立案する際に有用なマップが作成できた。注目するサービスによって重要度の高い空き地が異なるため、複数のサービスの評価結果と住民へのアンケートから得られたニーズを総合し、合意形成の場で示すことが重要であると考えられる。今後、空き地の価値を踏まえた都市計画を立案する上で、本研究の結果や方法論は有用であると考えられる。


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