| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-249  (Poster presentation)

サンショウウオの幼生・成体期を統合した生態系横断的な個体数決定機構の解明

*高木香里, 宮下直(東大・農)

 森林と渓流は、デトリタスなどの移動を介して密接に関係している。そのような環境では ユニークで多様な生物が生息しており、生物多様性が高い場所の一つである。
 両生類は水陸両方を必要とするエコトーンの代表的な生物であるが、森林環境は両生類の個体数に対し、幼生期・成体期を通して影響を与える可能性がある。両生類の多くは、幼生期を森林と近接する水域で生活する。そのような水域では周囲の森林から物理的・栄養的な影響を強く受けている。特に有尾類では、幼生は捕食者であるため、周囲の森林からのデトリタスが餌生物の個体数を増加させ、ボトムアップ効果によって、幼生の個体数に影響を与えると考える。さらに成体の生息地は林床であるため、森林環境は両生類の生活史を通じ、二つの経路で個体数に影響を与えると考える。しかしそのような系において、森林と渓流の環境が統合的にどのように両生類の個体群動態に影響を与えるかは不明である。また、成体では生息地間をしばしば移動するため、生息地間の連結性が個体群に影響する可能性もある。
 本研究では、八王子西部の39本の小渓流とその周辺の森林に生息するトウキョウサンショウウオを対象に、渓流と森林の環境および生息地の連結性を統合した評価を通し、個体数の制限要因の解明を目指した。
 その結果、本種の生息には、幼生期・成体期ともに渓流周辺が落葉樹林であることが必要であり、加えて連結性を考慮する必要があることを示した。幼生期では、渓流に流入するデトリタスが落葉樹由来であること、水温が高いことで餌生物が増加し、ボトムアップ効果によって幼生の生息環境の向上につながることを示した。さらに落葉樹林は、成体にも適した環境であることがわかった。
 水陸環境の両方を評価できるトウキョウサンショウウオは、関東里山の健全な水陸環境を表す良い指標生物になると考える。


日本生態学会