| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-254 (Poster presentation)
ミツバチは、営巣環境の悪化に伴うコロニー転居に先立ち、転居先の位置情報を巣内での尻振りダンスによって伝達し合意形成する。ニホンミツバチ(以下、ミツバチ)の分布の南限域である奄美大島には、野生ミツバチが生息できる営巣に適した樹木洞のある森林域が残されている。
本研究では、巣内のほぼ全個体を観察できる特製の透明観察巣箱(自作)で撮影した連続ビデオ動画の分析、ドローンで撮影した空中写真等による詳細な森林環境の把握、踏査による営巣可能樹洞の存在確認を組み合わせて、ミツバチの空間利用と情報伝達を研究する手法の有効性を検討した。
二次林の林縁の観察巣箱にコロニーを導入し、それぞれ2回の転居に向けた出巣に至る90分前からの、計180個体のダンスを解析したところ、営巣候補地までの方位角と距離は7.6°/846.1mおよび22.5°/775.0mと推定された。推定地データからカーネル密度推定を行い、分布が集中するエリアを地図上に可視化し、ドローンを用いて空中写真を撮影したところ、スダジイ等の大径木の生育する森林域であった。植生図、DEM、樹冠サイズ指数マップも合わせて森林特性を把握したところ、その空間は樹冠サイズの大きい谷地形の林木地であった。踏査可能な範囲内では、営巣条件を満たす樹洞を11個確認できた。
観察巣箱を用いることで、巣内のほぼ全個体を同時にビデオ動画で詳細に記録でき、転居ダンスを含めた転居に向けた行動を詳細に観察できた。この手法は、多様な目的の巣内での行動研究にも有効であると考えられる。森林域において、転居ダンスから推定された営巣候補地の森林特性は、ドローンで撮影した空中写真や既成の樹冠サイズ指数マップ等で把握でき、その空間情報の有効性は踏査で確認できた。本研究で開発した手法により、ミツバチにとって重要な営巣環境を、直接踏査して樹洞を調査するよりも効率良く把握できることが示唆された。