| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-255 (Poster presentation)
生物の保全対策には生態的,景観的,遺伝的などの様々な情報が必要である.中でも遺伝的情報に基づく集団構造の推定は,集団間の遺伝子流動と集団内の遺伝的多様性に配慮した保全管理単位の決定に有効である.そのため絶滅危惧種では種内の遺伝的情報の決定は急務である.
ライチョウLagopus muta japonicaは,本州中部の高山帯にのみ生息する日本固有亜種である.近年,地球温暖化による生息適地の減少や天敵の高山帯への侵入などによって集団サイズの縮小や遺伝的多様性低下などの遺伝的影響が危惧されている.既存の分布域においても地域絶滅した集団が複数ある上に,国内の総推定個体数もこの20 年間で約3,000 羽から約1,700 羽まで急激に減少している.このような背景から,国はレッドリストのカテゴリーを絶滅危惧IB 類に引き上げ,再導入を含めた保護増殖事業計画を策定している.そこで本研究では,遺伝的視点から本亜種の保全計画に寄与することを目的として,次世代シーケンサーを使ったゲノムワイドなSNP解析による集団構造の推定,および集団構造を規定する環境要因の検出を試みた.
2001−2016年に本亜種の分布全域でサンプリングされた167個体のDNAをサンプルに用いた.2005年以前のサンプルはDNAが著しく劣化していたため,微量なDNAからでも解析可能なMIG-seq法を用いた.アセンブルして得られた193座のSNPsを解析した結果, 南アルプスの集団とそれ以外の集団との間で顕著な遺伝的差異が見られた.南アルプス以外の集団間ではクラインが検出され,山域間での遺伝子流動が示唆された.更にFSTを応答変数とするGLMMを構築した結果,遺伝子流動を制限する要因として複雑地形と亜高山帯植生の影響が検出された.本発表では,以上の解析結果を元に,本亜種における効果的な保全管理単位についての考察を行う.