| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-256 (Poster presentation)
半自然草原はかつて採草地等に利用され、人為圧により遷移の途中相が維持されてきた。しかし1960年代以降、急速に経済的価値を失い、面積が減少している。これにともない、草原性生物の減少・絶滅が深刻な問題になっており、近年は各地で保全活動が行われている。鳥取市佐治町のススキ型山地草原「三原台」では、絶滅危惧種チョウの保護のため、2004年から13年間、草原全体約24haのうち約1.7haで刈り払いが行われている。三原台では2008年ごろからニホンジカによる食害が増加した。対策として2012年からシカ柵の設置・管理を開始し、柵内側を中心に刈払いが行われている。そこで本研究では、刈払いとシカ柵の有無による植生構造を比較するとともに、シカ柵の設置の有効性を山地草原性チョウ類の食草および吸蜜植物の点から評価した。
調査は2017年7月から9月にかけて行った。シカ柵内外、刈払い有無、地形を指標に2m×2mの調査枠を計31ヶ所設置し、植生調査、ススキの地上部本数計測を行った。調査の結果、刈払い区では非刈払い区と比べ、平均群落高が約0.8m抑えられ、ススキ平均本数は約53%に減少した。さらに、刈払い区ではシカ柵の設置により種多様度が高まっており、刈払いとシカ柵に種多様性を高める効果がみとめられた。チョウの食草となる種が出現し、多様なチョウの分布に役立つ可能性がある。ただし、オカトラノオやノアザミなどチョウの吸蜜植物は草原全体に少なく、特に柵外では希少だった。これにはシカの食害の影響が考えられる。このように、刈払いが多様性を高め、シカ柵の設置が食草と吸蜜植物を保護することが示唆された。シカが増加した中国山地の山地草原において、シカ柵の設置は種多様性維持に有効であるが、チョウの保全には草原全体に吸蜜植物を増やす努力が必要と考えられた。