| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-260 (Poster presentation)
再生産効率を規定する環境要因の特定は生物種保全にとって重要である。カワシンジュガイ(以下、貝)は幼生期にヤマメ(Oncorhynchus masou)の鰓に一定期間寄生する生活史を持つ。ヤマメは貝の初期寄生に対して免疫排除機構を有し、一方で、水系ごとに独自性を持つ個体群遺伝構造を有する 。寄生者は同所的に生息する宿主の免疫排除の程度を低減する適応をすることが知られている。したがって、移動性に乏しい貝は宿主を含めた地域環境への適応を高めている可能性が高く、同所的に生息するヤマメに対して寄生成功確率を高める可能性が考えられる。本研究は、貝―ヤマメ系における宿主―寄生関係(寄生成功率)が地域的に特異であるかどうかを確かめた。
北海道の安平川、千歳川及び積丹川から、それぞれヤマメ及び貝を採取し、ヤマメ3系統×貝3系統による合計9つの組み合わせで人工寄生実験を行った。寄生幼生数の測定は、寄生直後(0日目)と一定時間経過後(17あるいは18日目)に行った。一部ヤマメの鰓に形状変化を伴う疾病が確認されたため、ヤマメの鰓面積と疾病に罹患した鰓面積を計測し、また幼生の寄生部位を罹患有無に関連づけて記録した。各種変量の統計学的解析には、一般化線形(混合)モデルを用いた。
寄生直後の幼生数はいずれの貝系統を寄生させた場合でも、他の2系統ヤマメを寄生した場合と比較して、積丹川系統ヤマメで少なかった。これに関連してヤマメの鰓疾病面積は、他の2系統と比較して積丹川系統が大きかった。このことから、貝幼生は鰓の疾病が見られた部位には定着できず特に積丹川系統ヤマメでは高い確率で寄生に至らなかったと考えられた。また17日以上経過後ではいずれの組み合わせでも寄生幼生数に差はなかった。したがって、貝―ヤマメ系における宿主―寄生 関係(寄生成功率)の地域的特異性は見られなかった。一方で、疾病に係る鰓変化が貝の初期寄生成功率に影響を与えることを示した。