近年、温暖化防止策としてバイオチャーの活用が注目されている。バイオチャーは植物遺体などの有機物を加熱分解し炭化させたもので、土壌への散布により、炭素を長期的に大気から隔離する効果や、土壌改良による植物の炭素固定を促進する効果が期待される。バイオチャー散布が農地に与える影響を検証する研究は行われてきたが、森林生態系の炭素動態に与える影響を検証した研究はほとんどない。そこで本研究では、バイオチャー散布が森林生態系の炭素動態に与える影響の解明、散布量の違いに伴う応答の比較、そして、散布後1年目と2年目における応答の比較を目的とする。
 
　調査は埼玉県本庄市の暖温帯コナラ林で行った。バイオチャーを散布していない0t区、5t ha^-1散布した5t区、10t ha^-1散布した10t区(20m×20m)をそれぞれ4個ずつ計12個設置し、各区画において土壌呼吸量(SR)、枯死・脱落量(LF)、樹木成長量(ΔB)を測定した。LFとΔBの和から純一次生産量(NPP)を算出し、寄与率を用いてSRから従属栄養生物呼吸量(HR)を推定した。さらに、NPPとHRの差から生態系純生産量(NEP)を算出した。
 
　2年目は1年目と同様に、SRとLFがバイオチャー散布区で大きな値を示した。これは、バイオチャー散布による微生物量の増加と、葉や花の生産量の増加に起因すると考えられる。１年目と異なる点もあり、5t区よりも10t区においてSRとLFが増加する傾向が見られ、0t区と10t区との間で有意な差が見られた。一方、ΔBはバイオチャー散布による有意な影響は見られなかったが、1年目と比較すると、0t区より5t区と10t区で相対的に大きな値を示した。これらの結果より、NEPは10t区で最大値、5t区で最小値を示して、１年目と同様に、バイオチャー散布によるNEPの増加は見られなかった。以上より、バイオチャー散布はLFやSRの増加といった影響を及ぼすが、森林生態系の炭素固定能を向上させる効果は見られないことが示唆された。