| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-277  (Poster presentation)

山火事直後の土壌・植生回復過程における残存根の役割

*前田瑞貴(横浜国大), 藤井佐織(アムステルダム自由大), 谷川東子(森林総研関西支所), 田和佑脩(大阪環農水総研), 武田博清(同志社大), 森章(横浜国大)

山火事は植物の遷移段階や土壌環境に変化をもたらす要因として知られている.山火事後,土壌に灰化した有機物が供給されることは広く知られているが,一方で地下部には枯死根が燃えずに残存すると言われている.山火事後に新規移入した植物が定着する際,土壌の物理化学特性が鍵となり,土壌微生物の働きがその主たる駆動要因となる.残存した枯死根は,山火事後の土壌微生物や,分解過程を経て植生回復に影響を与えると考えられる.そこで本研究では山火事後の枯死根と植生,土壌微生物の関係に着目した.
調査はアメリカのヨセミテ国立公園で行なった.2014年7−8月に発生した林冠火事を対象とし,2015年6月から2017年6月までの間に計5回の調査を行った.山火事の有無で対になるようにプロットを設け,植生被度,土壌環境値として地温,pH,土壌含水率,土壌炭素及び窒素量,無機態窒素,さらに土壌微生物バイオマスC(MBC),枯死根量と現存量,根の生産性,分解を測定した.
本研究で山火事の影響が土壌環境に存在する中で,土壌中に枯死根が残存していることが明らかとなった.また山火事があったプロットではMBC,植物種数,被度が年々増加していた.さらに根の生産性は山火事の有無に関わらず変化しないことが示された.枯死根のMBC,植物被度と種数,根の生産性への影響を重回帰分析で検証したところ,MBC,植物被度と種数では説明変数として枯死根が選択され,これら応答変数は枯死根と正の相関関係を示した.先行研究より,火事の際に土壌に伝わる熱により土壌中の根の細胞が壊死し,窒素が滲出することが山火事直後の無機態窒素の増加要因として知られている.その為,枯死根が多く残っている空間ほど土壌微生物が利用可能な資源,または植物が利用可能な栄養塩が多く存在したと類推される.これら結果より,山火事後の土壌中の枯死根が,資源として直接的に土壌微生物に関与し,間接的に植生に関与していることが示唆された.


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