| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-279  (Poster presentation)

温帯性常緑針葉樹ヒノキの窒素利用における菌根菌の寄与

*津田菜月(三重大学)

ヒノキは土壌中の無機態窒素を直接,または細根に共生するアーバスキュラー菌根菌(以下,AM菌)を介して吸収している.ヒノキの葉など有機物中の窒素安定同位体比(δ15N)は窒素源のそれを反映しているとされてきたが,AM菌の影響を受ける可能性が指摘されている.本研究では,AM菌がヒノキのδ15Nの樹体内分布に及ぼす影響を解明するため,殺菌剤ベノミルを施与してAM菌感染を抑制した殺菌区と施与しない対照区に分けてヒノキ苗を約10週間育てた後,葉および細根のδ15Nを測定した. 細根の細胞内にAM菌が形成した樹枝状体,菌糸コイル,嚢状体が存在するかを顕微鏡で観察し,殺菌剤施与によるAM菌の感染の減少を確認した.殺菌区では葉と細根のδ15Nはほぼ同じ値であったことから,ヒノキ苗において細根から吸収した窒素を樹体内で輸送・同化する際には同位体分別が起きないこと,AM菌がいなければ葉と細根の窒素源は同じであることが示唆された.対照区では葉のδ15Nは殺菌区のそれと同程度であったのに対し,細根のδ15Nは殺菌区よりもばらつきが大きかったことから,AM菌の存在が細根のδ15Nに影響したことが示唆された.この原因として,AM菌はNH4,ヒノキ苗はNO3-を利用しており,細根がAM菌から受け取るNH4の割合の個体間差により同位体比に差が生じた可能性と,細根がAM菌から窒素を受け取る際に窒素の需要供給バランスに応じた同位体分別が起こり,そのバランスの個体間差により同位体分別の大きさに差が生じた可能性が考えられた.


日本生態学会