| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-287  (Poster presentation)

トドマツ人工林小流域における森林伐採後の土壌窒素動態

*平野和貴(北大・院・環境), 柴田英昭(北大・FSC), 井上貴央(北大・FSC), 長坂晶子(道総研・林業試験場), 長坂有(道総研・林業試験場), 速水将人(道総研・林業試験場)

森林伐採は生態系内の窒素循環を改変させ,それに応じて渓流水に含まれる硝酸態窒素濃度が変化することが知られている。しかし,その変化パターンは、土壌中のプロセスの違いにより異なることも報告されており、その関係性は十分に明らかになっていない。これまで北海道・芦別市に位置するイルムケップ山塊のトドマツ人工林では,渓流水中の硝酸態窒素濃度について,伐採強度が同程度でも流域間で伐採後の応答の違いが認められている。本研究では流域間における渓流水質の伐採応答の違いに着目し、土壌中の窒素プールや土壌微生物による窒素無機化・硝化速度との関係性について明らかにすることを目的とした。2015年に伐採が行われた流域において,流域内の伐採区域と,伐採が行われた流域の中でも伐採が行われていない区域(非伐採区域)で2016~2017年にかけて土壌の調査を行い,渓流水質との関係を考察した。その結果、伐採後に渓流水中の硝酸態窒素濃度の上昇がみられた流域では,伐採域について表層土壌(0~20cm)に含まれるアンモニウム態窒素現存量が他の流域に比べて多いことが認められた。一方,土壌中の硝酸態窒素現存量に関しては流域間で有意差は認められず,土壌中の硝酸態窒素プールと渓流水中の硝酸態窒素濃度との関係も不明瞭であった。伐採直後の土壌環境と類似した条件と考えられる非伐採区域での現地土壌培養の結果から,伐採後の渓流水中の硝酸態窒素濃度の応答が弱かった流域では,応答が強かった流域と比較して表層土壌の正味硝化速度が著しく小さく,硝化率が有意に小さいことが示された。したがって,土壌中での伐採後における硝化速度の違いが,伐採後の渓流水中の硝酸態窒素濃度の応答に関連していることが示唆された。これらの結果から,元々の土壌中の窒素代謝ポテンシャルの特性を調べることによって,伐採後の渓流水質の応答の規模を推定できる可能性が示唆された。


日本生態学会