| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-292 (Poster presentation)
比較的急峻な斜面を有することが特徴的な日本の森林では、斜面位置によって卓越する窒素循環経路に違いがあることがしばしば報告されている(Hirobe et al.1998)。近年、東京大学千葉演習林袋山沢試験地の人工林内における全長100mの斜面では、上部から下部にかけて表層土壌の含水率とNO2-および NO3-生成速度が上昇すること、両者の空間分布がよく一致することが明らかにされた(加藤 2015, 黒岩 2015)。さらに、本研究室の長野らは、上述の斜面を最上部から0-30m(上部),30-70m(中部),70-100m(下部)の3つのプロットに区分けし、各斜面位置から採取した0-10cm鉱質土壌を用いて含水率を変化させた長期培養実験を行なった。その結果、土壌含水率がNO2-生成速度を強く制御する要因であることが実証された。本研究では、含水率がNO2-生成活性を変化させるメカニズムを明らかにすることを目的に、NO2-生成を担うアンモニア酸化アーキア(AOA)の菌叢およびアバンダンスの変化とNO2-生成速度の変化との関係を明らかにした。試料には、各斜面位置から採取した土壌を重量含水率20%,32.5%,45%に調製し、25℃暗所で1,32,84日間培養したのちに-20℃で保存した土壌を用いた。DNAを抽出後、アンモニア酸化を担う機能遺伝子(amoA)をターゲットにクローンライブラリー解析と定量PCRを行った。その結果、培養開始時点でのAOAの菌叢は斜面上部と下部で明確に異なり、これは84日の培養期間中にほとんど変化しなかった。一方、いずれの斜面位置でも含水率に応答してAOA amoAコピー数は増加し、NO2-生成速度とAOA amoAコピー数は有意な相関を示した。この関係性は上部の土壌ほど明確であり、中〜下部にかけては他のプレイヤー(アンモニア酸化細菌など)の寄与も重要であると推察された。