| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-012  (Poster presentation)

気候特性から見た北東アジアにおけるチョウセンゴヨウの分布変遷

*福井俊介(筑波大学/生命環境), 上條隆志(筑波大学/生命環境), 設樂拓人(筑波大学/生命環境), 松井哲哉(森林総合研究所)

チョウセンゴヨウは、約2万年前の最終氷期最盛期(LGM)には本州全域に分布していたことが大型遺体化石から示唆されているが、現在の分布は本州中部と四国に限られる。また、隔離的に分布している日本とは対照的に、中国東北地方や極東ロシア沿海州(NEA)では優占種として植生帯を特徴づけている。こうした分布の違いは、最終氷期以降、日本とNEAという地理的に隔離された空間の中でチョウセンゴヨウ林が独自の成立過程を経てきたことを意味する。そこで、本研究では本種に対して北東アジアスケールで分布予測モデルの手法を用いることで、LGMの潜在分布域を予測し分布変遷の要因を推定した。
 日本においては分布域全体を現地踏査することで、NEAにおいては既存の文献資料より分布地点を抽出することで、本種の分布データを集めた。過去(LGM)・現在の気候値は、WorldClimで公開されている19気候変数のうちAICcにより選択された4変数を用いた。分布データと気候変数を用いてMaxentモデルを構築した。構築したベストモデルを用いて、過去・現在におけるチョウセンゴヨウの潜在分布域を推定した。また、日本におけるチョウセンゴヨウの大型遺体化石の先行研究を集積し、分布予測モデルが推定した過去の潜在分布域と比較を行った。
 過去の潜在分布域は、本種の大型遺体化石の分布とほぼ一致した。日本においては九州から東北に至るまで広い分布を示した一方、NEAにおいては朝鮮半島のみと限定的な分布を示した。さらに、日本とNEAの両集団は朝鮮半島−対馬間の陸橋を通して連続分布していた可能性が示された。その後、日本では積雪量の増加などにより分布が大きく縮小し、NEAでは冬期の気温の上昇により分布が拡大することで、現在の分布になったと考えられる。本研究により、最終氷期以降の地理的隔離に伴う地域毎の気候変化が本種の大規模な分布変遷に強く影響したことが示唆された。


日本生態学会