| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-014  (Poster presentation)

中期更新世後半MIS7の気候変化と八ヶ岳東南麓の植物相変遷-大型植物化石群からの復元-

*齊藤ひさ(千葉大院・園芸), 百原新(千葉大院・園芸), 水野清秀(産業技術総合研究所), 内山高(富士山科学研究所), 内山美恵子(都留文科大)

本州中部山岳地域は,高緯度地域に分布の中心を持つ北方系植物の南限となっている一方,太平洋側に流れ込む河川の渓谷は南方系植物の北限となっている.そのため,標高や地域によってフロラの変化が激しい.中期更新世(約78~13万年前)は,氷期-間氷期の気候変動が著しくなり,植物の分布域にも影響を与えたとされる時代である.現在の中部山岳地域の高山植物が北方系グループから遺伝的に隔離された時期も,中期更新世後半だと考えられている.しかし,中期更新世の中部山岳地域の古植生と古気候を定量的に検討した例は少ない.本研究では,八ヶ岳東南麓の標高1200m付近の河川成堆積物に含まれる大型植物化石群を用いて,中期更新世後半の亜間氷期(MIS7.3)から亜氷期(MIS7.2)への寒冷化に向かう約21.6~21.2万年前の,山地帯上部の古植生と古気候を復元した.これまで,この時代の八ヶ岳東南麓ではマツ科針葉樹が優占した森林や,現在よりも冷涼な気候が復元されてきた.しかしながら今回の分析で,MIS7.3の温暖期のピークにあたる時代の地層から,マルミノヤマゴボウ,ツゲ,クラマゴケといった暖温帯に分布中心を持つ種と,多くの落葉広葉樹種が産出した.暖温帯種の現在の北限域の気温は,マルミノヤマゴボウが8.5℃,クラマゴケが8.1℃,ツゲが6.6℃であることから,MIS7.3の温暖期のピークの古気温は現在の調査地周辺の年平均気温(7.8℃)よりも,やや温暖な気温が推定される.これら暖温帯に分布中心を持つ種は,MIS7.2の寒冷化に向かうとともに産出しなくなり,大型植物化石群の種多様性も減少する.今回の分析結果と,同時代の低標高地域での既存研究とを比較することで,氷期-間氷期の気候変化に伴う,中部山岳地帯における植物の垂直分布の変化が明らかになった.


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