| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-016  (Poster presentation)

分布環境辺縁部にあるブナ林に対する気候変動の影響

*小山有夢(東北大・院・生命), 饗庭正寛(東北大・院・生命), 小黒芳生(森林総研), 中静透(東北大・院・生命)

近年、気候変動が生態系に与える影響は顕著になりつつある。日本の冷温帯林に特有なブナ林においても、各地で生態系の変化が報告・予測されており、特に分布環境辺縁部にあるブナ林の衰退が懸念されているが、その変化の実態の把握は十分でない。本研究は、気候変動下にある分布南限および下限にあるブナ林の実態について全国スケールの調査を行い、今後の変化予測に役立てることを目的とする。
 1980年代に環境省により特定植物群落に選定されたブナ林について、1980年当時の気候データや地形・地質データを説明変数に、ランダムフォレストを用いてブナの分布モデルを作成し、存在確率を算出した。また、そのモデルと2010年の気候条件から、2010年における存在確率を計算した。さらに、ブナの存在確率が低い地点(分布南限および下限、以下非適地と呼ぶ)と高い地点(適地)を選定した。この他のブナ林を含め、現在までに27地点で現地調査(高木・亜高木の毎木調査と低木層・実生種の記録)を行った。また、30年前と現在のギャップ面積の比較のため空中写真の解析を行った。
 その結果、適地の多くではブナが高木から低木・稚樹まで存在するが、非適地の多くでは高木層にブナ以外の樹木が優占し、稚樹がほとんど存在しないことがわかった。したがって、非適地は今後ブナ林としては維持されず、他の森林へ変化していくことが予測される。いくつかの非適地では、常緑広葉樹への移行が示唆されたが、より高温域の森林への移行が起こるかどうかは、気候条件だけではなく周辺の景観レベルの要因の影響も示唆された。空中写真の解析から、ギャップが広がっている森林も認められた。


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