| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-017 (Poster presentation)
長崎県対馬市は、九州と朝鮮半島の間に浮かぶ離島で、島全体の9割を森林が占める。その森林のうち65%は天然林であり、その半数以上が広葉樹林である。昭和30年代頃には、広葉樹林は木庭作と呼ばれる焼畑農業や薪炭林利用、シイタケ栽培のための原木の供給林としての利用されてきた。現在では、石油燃料の広がりなど社会的な変化とともにこれらの利用は減少したが、シイタケの原木確保は主要な二次林利用として続いている。落葉広葉樹によって形成される二次林は里山林と呼ばれ、定期的な伐採によって自然の回復力と人為的かく乱が均衡し、維持されてきたが、利用の変化により、そのシステムも大きく変化していると考えられる。そこで、主要な利用であるシイタケ原木の利用実態と伐採後の更新状況を明らかにし、二次林の変化について考察を行った。まず、原木林の利用実態を明らかにするため、1)地域住民への聞き取り及び文献調査を行い、次に伐採後の更新状況を明らかにするため伐採後1~50年が経過した地点において、2)毎木調査、3)下層植生調査、内1~5年の地点で4)萌芽数調査を行った。その結果、利用に関しては、かつて原木は私有林から調達していたが、近隣の他の所有者から立木を購入するケースが増え、また適正とされる20年前後の樹齢を超えた木を切るケースも増加していた。コナラ等のシイタケ原木は樹齢40年を超えると萌芽発生が低下するとされ、森林の再生能力の低下が懸念された。また萌芽更新においては、萌芽を出す切り株の数は経過年数とともに減少し、5年目には30%以下に低下した。萌芽を出している切り株の萌芽本数は2年目に増加し、その後減少した。対馬市では、近年シカによる食害が深刻な状況にあり、伐採された場所ではシカによって萌芽更新が妨げられている可能性が高い。以上の結果から、利用の変化とシカの食害の2つの要因が対馬の二次林の再生能力を低下させていると考えられた。