| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-022 (Poster presentation)
近年、森林の種多様性創出要因として、成木近傍における菌類との相互作用が注目されている。例えば成木近傍の同種実生の更新は、アーバスキュラー菌根(AM)菌と共生する樹種では土壌病原菌により阻害され、一方、外生菌根(ECM)菌と共生する樹種では促進された(Bennett et al. 2017)。この働き方の方向性の違いは、森林内の種の優占度や多様性を大きく左右すると考えられる。しかし、これらの先行研究は土壌内の菌類だけを考慮した室内試験であり、野外で多く見られる葉の病原菌の影響は考慮していない。また、ギャップ形成による光環境のヘテロ性が菌類に及ぼす影響も不明である。本研究は、菌根菌タイプの違いが成木近傍における同種実生の定着にどう影響するのか、その影響は林内・ギャップの異なる光環境下で異なるのか、を明らかにすることによって森林生態系における種多様性維持メカニズムを解明することを目的とする。調査は東北大学フィールドセンター内の二次林で行った。林内およびギャップ脇で生育するAM樹種(ウワミズザクラ、ミズキ、イタヤカエデ)、ECM樹種(ブナ、ミズナラ)の成木近傍にそれぞれの種子を播く交互播種試験を2015年に行った。2016~17年に2~4週に1度実生の死亡要因を特定し、2017年に最終的に生存した個体の乾重を測り、同種成木からの距離依存的な影響を解析した。その結果、AM樹種では、特に同種成木の近傍で葉の病気と土壌病原菌による実生の死亡率が高く、一方、ECM樹種では低かった。その結果、AM樹種で相対優占度が低くなり、ECM樹種では相対優占度が高くなったと考えられる。さらにAM樹種では葉の病気によりギャップでより強く実生の生長が阻害された。すなわち、野外においても実生の定着パターンは菌根菌タイプによって異なり、その影響は光環境によっても変化した。これらの結果は、菌類との相互作用が種多様性や優占度を決定する大きな要因であることを示唆した。