| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-023  (Poster presentation)

2年間の被陰処理によるコナラ実生の生存と成長

*小林哲(玉川大・農・院), 田中佑(玉川大・農), 関川清広(玉川大・農)

 里山のコナラ二次林は,日本の低山地域の代表的自然景観であり,かつては多くが萌芽更新により維持されてきた.近年では面積的に減少し,残されたコナラ林も管理放棄によって林内樹木が高齢木化し,萌芽更新は困難になりつつある.今後のコナラ二次林の維持には,実生更新も重要と考えられる.本研究は,コナラ二次林において,2年間の被陰処理がコナラ実生の生存と成長に及ぼす影響を調査し,実生更新の可能性を探ることを目的とした.玉川大学構内(東京都町田市)のコナラ二次林に,コントロール区(林床環境)と被陰区(遮光率50 %)それぞれ7区ずつ設置した.各区内のコナラ実生をマーキングし,2生育期に渡り2週間に1回の頻度で,実生数,実生高,葉数,葉長,葉幅を測定した.調査開始から終了までの2年間で実生数は,コントロール区と被陰区でそれぞれ28から10個体(死亡率64.3 %),39から4個体(死亡率89.7 %)となり,被陰処理は死亡率を高めた.また,コントロール区の方が,実生高が高く,葉数が多い実生が生存し続ける傾向にあった.これは,実生をより上位へ配置するために茎を伸ばす避陰反応,および葉位ごとの光環境に応じた葉を多く展開することによって光合成生産を最適化したと考えられる.一方被陰区では,伸長量を抑えた実生が生存し続ける傾向にあった.これは,茎を伸ばさず,光合成産物を葉に優先的に分配することで弱光環境に適応したと考えられる.コナラ実生は,光環境によって葉(光合成器官)と茎(非光合成器官)への光合成産物の分配を調節することで生存し続けた.しかし被陰区では,2生育期に渡る被陰処理によって光合成産物の分配調節がうまくいかず,89.7 %の実生が死亡した.以上から実生更新の際には,下草刈りなど定期的な光環境の改善が必要である.


日本生態学会