| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-024  (Poster presentation)

御嶽亜高山帯常緑針葉樹林におけるオガラバナ個体群の構造と動態

*岡田実憲(名古屋大学), 西村尚之(群馬大学), 中川弥智子(名古屋大学)

森林は多数の樹種からなる森林樹木群集であり、その維持機構の解明には、同種や他種との個体間で起こる競争の実態や各構成種の生活史特性を把握することが欠かせない。亜高山帯常緑針葉樹林においても、優占種である複数の針葉樹を対象に、樹種の共存について議論されてきたものの、同森林内に生育する落葉広葉樹の個体群維持機構に着目した研究はあまりない。そこで本研究では、優占する常緑針葉樹の中で落葉広葉樹が維持されるメカニズムの解明の足掛かりとして、落葉広葉小高木であるオガラバナ個体群の構造と動態を明らかにし、常緑針葉樹のものと比較した。
 調査は、御嶽山に設置されたプロット(2ha、標高1900~2000m)で実施した。2009年と2015年に胸高直径5cm以上の樹木を対象として行われた毎木データと、2017年の樹高1.3m以上のオガラバナを対象としたデータを用いて、オガラバナと優占針葉樹4種の個体群の構造と動態を表す指標を算出した。また、オガラバナと優占針葉樹4種の空間分布と位置関係を、K関数を用いたモンテカルロシミュレーションによる適合度分析により検討した。
 樹高130cm以上の個体において、オガラバナの幹密度はオオシラビソ、シラビソに次ぐ3番目、胸高断面積合計は優占針葉樹4種に次ぐ5番目であり、その直径階分布はL字型で、空間的には集中分布し、実生は成木周囲に高密度で分布していた。また、オガラバナは陽樹的な生活史特性を示すシラビソと同所的に分布していたが、陰樹的な生活史特性を示すコメツガとは異所的に分布することが明らかとなった。さらに、オガラバナの回転率は平均して4~5%/年で優占針葉樹4種と比較して高く、個体の成長速度も速かった。
以上より、オガラバナは林内の相対的に明るい場所で、素早く成長して優占針葉樹の被圧を回避し、個体群を維持している可能性が考えられた。今後は、光環境や繁殖・更新特性も併せて調査することで、その全貌の解明を目指したい。


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