| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-032 (Poster presentation)
植物は生育環境に応じて形態を変化させる。生育環境は様々な要因で変化するが、標高の変化では紫外線量や気温、気圧など様々な環境要因が劇的に変化する。そのため、標高をまたぎ広域に生育する植物種の場合、標高により形態が異なっていることが多い。本研究の対象種である多年生草本のアブラナ科ハクサンハタザオ (Arabidopsis halleri subsp. gemifera)の場合も同様である。ハクサンハタザオは伊吹山の低標高域・高標高域に生育し、高標高個体は低標高個体に比べ、トライコーム(表皮上の毛状突起)の密度が高いことが知られている。加えて葉面の撥水性にも、生育標高及び、葉の種類(ロゼット葉・茎葉)によって違いが見られる。ハクサンハタザオは年間通して、ロゼットの形態をとるが、初春に抽台して花茎を伸ばす。この時、花茎に形成される葉をロゼット葉と区別して茎葉という。葉面の撥水性は低標高個体の葉に比べ、高標高個体の葉、特に茎葉で高いことが報告されている(Biva et al ., in press)。
本研究では、撥水性の違いは葉面クチクラワックスの組成によるものと予測し、GC・GC/MS(二次元ガスクロマトグラフ質量分析計)及びGC/FID(ガスクロマトグラフィー水素炎イオン化検出器)を利用して葉面クチクラワックスの定性・定量を行った。その結果、クチクラワックス量は、撥水性が高い高標高個体の茎葉で最も多いことが明らかになった。また、定性分析から、クチクラワックスの主成分はアルカンと一級アルコールであった。そのため、いずれかが撥水性に関与していると考えられる。高標高の茎葉において、他の葉と比較し、最も差が大きい成分はC31アルカンであった。一方で、一級アルコールの量が撥水性の低い低標高のロゼット葉で高かったため、撥水性への関与は小さいと考えられる。以上から伊吹山に生育するハクサンハタザオの場合、アルカンが撥水性に関与していると考え、現在、関連遺伝子の発現に差が見られるかを調べている。