| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-034 (Poster presentation)
近縁な複数種が独立性を維持しつつ同所的に生育するには,種間交雑を防ぐ生殖隔離が必要である.たとえば植物では,生育環境,開花時期,送粉者相の種間差などが複合的に機能し,種間交雑の抑止に貢献することが知られている.日本において近縁複数種の同所的分布がしばしば認められる植物分類群の一つに,サトイモ科テンナンショウ属が挙げられる.テンナンショウ属は日本列島において極めて短期間に多様化したと考えられ,種間の遺伝的距離が非常に近いため人為交配によって雑種形成が容易であるうえ,雑種個体の稔性はほとんど低下しない.したがって,野外集団におけるテンナンショウ複数種の共存には受粉前の生殖隔離が重要だと予想される.そこで本研究では,香川県南部の大滝・大川県立自然公園に同所的に分布するテンナンショウ2種,ユキモチソウとアオテンナンショウを対象に,形態比較によって雑種個体の有無を検証したうえで,生殖隔離の候補として,2種の生育環境(土壌水分・光条件),開花時期(見かけ上の花期と,実際に昆虫が訪花する期間)を比較した.その結果,本調査地では2種の中間形を示す雑種個体は存在せず,何らかの生殖隔離によって種の独立性が維持されていることが示唆された.また,生育環境には種間差が認められなかった一方,開花時期(とくに昆虫の訪花期間)は種間で明瞭に異なっていたため,本調査地では開花時期の種間差が生殖隔離として機能していると考えられる.さらに,ユキモチソウの開花日数はアオテンナンショウより8日ほど短かったのに対し,ユキモチソウへの昆虫の訪花頻度はアオテンナンショウを含む他種の3倍以上だった.このことは,ユキモチソウが短期間に多数の昆虫を誘引できる特殊な送粉様式を持つ可能性を示唆している.今後,テンナンショウ2種の共存を可能とする生殖隔離についてより詳細に検討するため,両種の訪花昆虫相と送粉様式を比較する必要がある.