| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-035 (Poster presentation)
春植物の代表的存在であるニリンソウは,一部地域で減少しつつある。春植物は夏になると地上部から消え休眠に入るが,その後林冠に空白のある場所では,陽性の夏緑性草本が繁茂する。これらの植物と春植物は地上部において時間的なすみ分けを行っているが,地下部では競合関係にあると考えられる。そこで本研究では,春植物ニリンソウについて,植生学と生理生態学の2つの観点からニリンソウの地上部消失後に同じ場所を利用する夏緑性草本との競合関係を明らかにすることを目的とする。
コドラート法に基づいた群落調査では,ニリンソウ消失後の植生の構造が大きく2つのパターンに分類され,その変化の軸が光環境にあることが明らかにされた。夏になると落葉広葉樹の葉が茂ることで林冠が閉鎖し,背の低い草本がわずかしか生えない低茎草本タイプ,夏季においても林冠にギャップがあることで,一定の光量が林床に差し込むことによって,背の高い夏緑性草本が繁茂する高茎草本タイプがみられた。この植生タイプ間でのニリンソウの植被率に差はみられなかった。
高茎草本タイプが成立するギャップ下にある群落内で,高茎草本の刈り取り操作を行い地温を比較したところ,ギャップ直下の林床では,草刈りしていないところとの平均地温の差が1℃,最高地温では2℃の差になった。これに対し休眠中のニリンソウの根茎の温度に対する呼吸速度を測定したところ,温度に対して指数関数的に上昇し,さらに地域間でも温度感応が異なることが示された。1,2℃の差でも個体内部の生理応答としては大きな変化といえ,呼吸速度を早めるということは,光合成器官のない休眠中のニリンソウにとって,根茎に貯蓄した同化産物を使うことになる。高い地温の状態がしばらく続けば,翌年の開花や結実に影響を及ぼす可能性もある。夏緑性草本の繁茂は,地温の上昇を抑えていることが示された。