| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-036  (Poster presentation)

ブナ科植物における開花制御因子FLOWERING LOCUS Tの種間比較と発現分析 Interspecific comparison and expression analysis of floral pathway integrator FLOWERING LOCUS T in Fagaceae

*澤崎佑太(九州大学), 北島薫(京都大学), 佐竹暁子(九州大学)

 ブナでは年ごとに開花量の変動があり、数年に一度、広範囲に渡って同調して一斉に花を咲かせる豊凶現象が知られている。ブナ科の他の樹種においては開花の時期や開花後結実に至るまでの時間には相違があるため、これらの繁殖形質は種ごとに厳密に制御されていると考えられる。開花タイミングについてはこれまで分子遺伝学的研究によってその遺伝的基盤が明らかにされてきた。ブナにおいては、花成経路統合遺伝子として知られるFLOWERING LOCUS T(FT)の発現量変化の観測から、FT遺伝子の発現量の年変動が豊凶をもたらす基盤となることが明らかにされてきた。しかし、ブナ科の他種においてはFTの同定と発現量の季節変化の定量は立ち遅れているため、種間でみられる繁殖形質の多様性がどうして生じるのかその遺伝的基盤については未解明のままである。そこで本実験では、繁殖形質が異なる多様なブナ科樹木を対象にFT遺伝子の配列決定と発現様式を調べることを目的とする。
 ブナを対象とした先行研究を参照し、ブナ科植物11種を対象にサンガーシークエンスによって配列情報を取得した。また、アラカシ、マテバシイ、コナラにおいては、FT遺伝子の全長決定および定量PCRにより2017年4月〜12月の期間で月ごとに発現量の定量を行った。
 上記11種においてFTの部分配列を取得し、内3種では完全長を取得しアミノ酸配列の類似性をみたところ、9割以上の一致がみられたことから高く保存されていることが示された。FT遺伝子の系統樹を構築したところ、これら遺伝子はシロイヌナズナFT遺伝子の相同遺伝子であることが確認された。アラカシとマテバシイにおいては、FT遺伝子は春は発現が低く、秋に高い相同性が見られたが、夏の発現は異なっていた。先行研究のブナとは単一ピークを示さないことや秋に発現が高まるという相違点が見られた。2種とブナにおける常緑と落葉などの形質の違いとその開花遺伝子制御の違いの進化的関連性が示唆された。


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