| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-037  (Poster presentation)

ボルネオ熱帯雨林におけるリュウノウジュとホソバリュウノウジュの雑種の戻し交雑による繁殖

*武田紗季(大阪市立大学・院理), 名波哲(大阪市立大学・院理), 濵田稔史(大阪市立大学・院理), 山倉拓夫(大阪市立大学・院理), 上谷浩一(愛媛大学・農), 市榮智明(高知大学・農), 田中憲蔵(森林総合研究所), Bibian Diway(サラワク森林公社), Mohizah B. Mohamad(サラワク森林局), 伊東明(大阪市立大学・院理)

種間交雑は両親種の遺伝的多様性に影響を与える。雑種形成は種を隔離する障壁を緩和し、種間の遺伝的差異を減少させる。一方、交雑による他種の遺伝子の獲得は種内の遺伝的多様性を増加させるといわれている。また、個体数の少ない種の遺伝子を維持する効果も考えられる。本研究では、近縁樹種が同所的に生育する東南アジア熱帯雨林において、種間交雑が両親種の遺伝的多様性に与える影響を調べた。マレーシアのランビル国立公園に設置された52ha調査区内では、フタバガキ科リュウノウジュ(Dryobalanops aromatica)とホソバリュウノウジュ(D. lanceolata)および両種の雑種が生育しており、雑種個体が稔性を持つことが示唆されている。調査区内の成熟木(DBH30cm以上)の個体数は、リュウノウジュ402本に対し、ホソバリュウノウジュは26本と少ない。また全成熟木のSSR遺伝子型をソフトウェアNewHybridsにより解析した結果、雑種個体が3本見つかった。さらに、雑種個体の繁殖に関わる遺伝子流動を明らかにするために、雑種と確認された1個体を母樹とする稚樹の父性解析を行った。花粉親が推定された71本のうち、リュウノウジュを父親とする個体が58本、ホソバリュウノウジュを父親とする個体が12本、自殖由来の個体が1本であった。雑種個体が戻し交雑をすることで、両親種の遺伝子組成に近い個体が生じると考えられる。また、調査区内の成熟木の割合に対して花粉親となったホソバリュウノウジュの割合が有意に高く、ホソバリュウノウジュが雑種個体の花粉親になりやすいという方向性が示唆された。これにより、雑種個体は個体数が少ない親種であるホソバリュウノウジュの遺伝子の消失を防ぎ、その個体群の維持に貢献していると考えられる。


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