| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-044  (Poster presentation)

ササ稈の空間分布に光環境、微地形、他の植物種はどのように関係するか?

*秋元勇貴, 可知直毅, 鈴木準一郎(首都大・理工・生命)

タケ・ササは不十分な管理の里山で分布を拡大していると言われている。しかし、その過程で個々の稈の動態を、他種との相互作用や生育環境に着目して調べた研究はほとんど行われていない。そこで、ササの分布の拡大過程を微細なスケールで検討した。ササ稈の空間分布を調査し、その群集構造と動態を光環境や微地形、他の植物種との関係から評価した。
アズマネザサを材料とし、松木日向緑地(東京都八王子市)に2 m × 10 mの調査区を2ヶ所設置し、1 m × 1 mのプロットに分割した。各プロットで、ササの稈および他種植物の個体の位置と種を、2016年と2017年に記録した。また、高さ1 m以上の木本については、その樹冠が林床を被陰する面積(被陰面積)を胸高直径から推定した。さらに、開空度、地表面の斜面勾配を測定した。これらから、ササおよび他種植物の空間分布と環境要因の相関を、プロットを単位として解析した。
ササの総稈数は2016年には714稈、2017年には743稈だった。他種植物は2016年には15種126個体、2017年には15種119個体が観察された。平均開空度は夏期には1.6%、落葉する冬期には6.3%だった。斜面勾配は平均で17.2°だった。ササ稈の1年間の生残率は95%以上であり、当年生稈の新規加入率は約5%だった。プロットあたりの生残稈数、死亡稈数、新規加入稈数はそれぞれ相互に有意に正に相関した。また、生残稈数は冬期の開空度とは有意に正に、常緑樹の被陰面積とは有意に負に相関した。しかし、斜面勾配とは有意な相関が見られなかった。
ササの総稈数はほとんど変化せず、また、特定の場所や環境に偏った稈の加入や死亡は認められなかった。そこで、調査地のアズマネザサの分布は、現時点では拡大していないと考えられる。さらに、開空度の高い場所や常緑樹に被陰されにくい場所にササ稈数が多いことから、ササは生残可能な環境で多くの稈を維持し、周辺の環境の好転を「待って」いる可能性がある。


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