| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-049 (Poster presentation)
雌雄異株植物の個体群では、しばしば性比の偏りや雌雄株の生育場所の分離が見られる。まず若齢段階での性比の偏りは、繁殖開始サイズの性差によって生じる見かけ上のものだと説明されることが多い。また、高齢段階での性比の偏りや生育場所の分離は、成長速度や死亡率の性差によって、成長過程の中で徐々に形成されると考えられてきた。これらの考え方においては、出生時の性比は母親あるいは場所によらず1:1であることが前提となっている。しかし、未開花株の性判別の難しさのため、その前提を検証した例はほとんどなく、種子や実生の段階から性比が偏っている可能性も否定できない。奈良県御蓋山の優占種であるナギ(Nageia nagi、マキ科ナギ属)についても、若齢段階および高齢段階でオス株に偏った性比やほとんどオス株からなるパッチの存在が確認されている。これらの構造の成立過程を説明するため、本研究では性判別DNAマーカーによりナギの実生の性を調べた。3本の母樹の樹冠下当年生実生の性を約100個体ずつ調べた。さらに、各実生の高さと湿重量を測定した。その結果、それぞれの母樹由来の実生集団のオス:メスの比は、それぞれ54:53、46:61、59:51であり、いずれも1:1から有意には偏っていなかった。また、実生の性比の母樹間の違いも見られなかった。実生の高さと湿重量は母樹間で有意に異なったが、雌雄間では差は見られなかった。以上の結果は、雌雄異株植物の実生の出生時の性比は母親によらず1:1であるという前提を裏付けるものであり、ナギについて観察される個体群構造のさまざまな偏りは、発芽・定着後の成長過程において徐々に形成されていくものであると考えられた。