| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-054 (Poster presentation)
セリバヒエンソウ(Delphinium anthriscifolium)は中国原産の一年生植物で、明治時代に日本に移入したとされる帰化植物である。乾燥種子の切片観察では一般的なデルフィニウムでは見られない未熟胚(球状胚)が観察された。また、セリバヒエンソウの種子形態は特異的であり、同心円状に6層の翼があり、他のデルフィニウムにはないくぼみを持っていた。
デルフィニウム属に分類されながら、このような特異的な種子形態を有するセリバヒエンソウは、未熟胚を持つことから種子休眠を有し、特異な発芽生理を持つと考えられた。
昼温20℃、夜温10℃の条件下では、50日後から発芽が見られ、最終発芽率は90%であった。同属の他種では、およそ2週間後までに発芽するのに対し、セリバヒエンソウは発芽に時間を要した。また、5℃冷湿処理やジベレリン処理では発芽は促進されなかった。
一方で、25℃温湿処理では、10、20、30日処理で発芽が促進された。特に、10、20日処理では発芽率の向上も見られ、一斉に発芽した。さらに、この25℃温湿処理後、5℃冷湿処理を10日加えた場合、さらに発芽は促進され、30日温湿処理後10日冷湿処理では、全処理区の中で最も早い20日後に発芽が一斉にみられ、発芽率も高かった。温湿処理が60日におよぶと発芽は阻害され、その後冷湿処理を加えても発芽促進効果を再び得ることはできなかった。
以上のことから、温湿処理により胚の成熟を進める能力を獲得すると考えられ、温湿処理後に短期間の冷湿処理が加わると、発芽は促進され、発芽率も向上した。これらは種子散布後の夏の気温が胚の成熟に影響すると考えられる。一方で、温湿処理後の長すぎる冷湿処理では発芽は抑制され、長期間の低温は胚の成熟を進める能力を一端打ち消し、生育不適期の冬期間における一斉発芽を抑制する不良環境への適応戦略であると考えられる。