| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-058 (Poster presentation)
キツリフネImpatiens noli-tangereは,ユーラシア大陸から日本に至るまでの広い分布域を持ち,国内では標高0 m~2000mの幅広い標高域に分布する一年生草本である.篠原(2014)は,キツリフネに2つのタイプ(早咲きのTypeⅠと遅咲きのTypeⅡ)が存在し,標高の上下で両者が不連続に分布していることを長野県の一山域で発見した.これをふまえて本研究では,新たに発見した3番目のタイプも含めてタイプ間の遺伝的分化を調べるとともに,複数山域での3タイプの分布と生態を明らかにした.
まず,核・葉緑体DNAの合計3遺伝子座を用いて分子系統解析を行ったところ,北海道から長野にかけて広く分布する通常のキツリフネ系統(クレードA)と,茎の色が顕著に白いクレードBが,それぞれ単系統群を構成することが明らかになった.クレードAには上記のTypeⅠとTypeⅡが含まれ,両タイプの間には塩基配列の差異は認められなかった.一方,クレードBは長野県の渓流沿いにのみ分布しており,クレードA のTypeⅡと側所的に分布することがあったが交雑個体は見られなかった.また,クレードAとクレードBの人工交配実験をおこなったところ,肥大化した種子が稔った.これらのことから,クレードAとBの間には生殖隔離が存在することが示唆される.
次に,より鋭敏な遺伝子マーカーであるマイクロサテライトマーカー5座位を用いてクレードA内のTypeⅠとTypeⅡの遺伝分化について検証した.長野県内の17地点から得られた188サンプルについてStructure解析を行ったところ,TypeⅠとTypeⅡの間に遺伝的分化が存在することが明らかになった.調査地点ごとに見た場合TypeⅠ,Ⅱのどちらか一方のみが分布していること(分布の異所性),および両タイプの雑種個体がきわめて少数であること(低い交雑頻度)から, TypeⅠ,Ⅱは野外で遺伝的独立性を維持していると考えられる.