| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-062 (Poster presentation)
地球温暖化によって気温の上昇や降水・降雪量の増減を介して森林を取り巻く環境が変動すると、樹木の開葉・落葉時期が変化し、森林の構造や種多様性のような森林生態系も変化する。環境の変動に対する樹木フェノロジーの変化を予測することは重要であるが、フェノロジーの集団内・集団間の変異の程度やその原因についての知見は蓄積されていない。そこで、北日本の多雪地域で優占する落葉樹種であるブナを対象とし、開葉フェノロジーの集団内・集団間変異をもたらす要因の解明を目的として、青森県八甲田連峰の山腹斜面と盆地(冷気湖)に6地点を設置し、葉フェノロジーの観察と融雪時期の測定を4年間行った。本研究では、変異をもたらす要因として、自然選択によって集団内・集団間の変異が維持されるという自然選択仮説と、集団間で遺伝子流動が生じることによって集団内の変異が増大するという遺伝子流動仮説の2つを立て、検討を行った。山腹斜面の3地点間で開葉に要する積算温量を比較すると、積算温量は高標高域で低標高域よりも大きかった。また、積算温量の集団内変異の程度は盆地中心部で外縁部よりも大きいという傾向が認められた。この結果は、盆地外縁部から中心部への遺伝子流動が生じている可能性を示唆している。さらに、盆地中心部の集団において開葉の早い個体(早期開葉型)と開葉の遅い個体(晩期開葉型)の葉の耐凍性を調べた結果、早期開葉型の方が晩期開葉型よりも耐凍性が高いことが明らかとなった。この結果は、晩霜頻度の高い盆地中心部においても早期開葉型の方が晩期開葉型よりも有利となる可能性を示唆している。したがって、盆地中心部での開葉積算温量の大きな集団内変異が自然選択によって維持されているとするならば、遅い開葉にも何らかの有利さが伴っていると考えられる。本発表では、開葉積算温量の標高変異も踏まえて、ブナ集団の気候温暖化に対する応答についても考察する。