| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-102  (Poster presentation)

琵琶湖産スジエビの生活史多型に関連した遺伝的構造の解明

*邬倩倩, 高見泰興, 源利文(神戸大・院・発達)

移動は動物の普遍的な行動であるが,移動様式はしばしば種間や同一集団内の個体間でも異なる場合がある.例えばサケ科の魚類には,残留型と降海型の2型が存在する.移動は集団間の遺伝子流動に関与するため,移動様式の多型を理解するためには,集団の遺伝的構造を把握する必要がある.本研究の研究対象である琵琶湖産スジエビ(Palaemon paucidens)は春から秋には沿岸に生息するが,冬期には深場に移動することが知られてる.しかし最近の調査により,冬季でも沿岸に残留する個体(非移動個体)が存在していることが確認された.しかし,両者が同一集団内の生活史多型であるのか,遺伝的に分化した別集団であるのかについては分かっていない.そこで本研究では,琵琶湖に生息するスジエビの異なる移動生態型に関連した遺伝的構造の解明を試みた.
分析には,移動型2集団(冬季の沖合湖底),非移動型12集団(冬季の沿岸),および両者が共存していると考えられる7集団(夏季の沿岸)計21集団490個体を用い,マイクロサテライト6遺伝子座の遺伝子型を決定した.各集団内の平均ヘテロ接合度の観察値(Ho)及び期待値(He)の範囲は,0.622〜0.964と0.672〜0.819であり,ハーディーワインバーグ平衡からの逸脱する傾向は見られなかった.集団間の遺伝的分化(Fst)の平均値は0.035(0.028-0.038),全集団間のFstは0.085であり,集団間の分化はあまり大きくないと考えられた.さらに,コンピュータープログラムSTRUCTUREを用いて個体の遺伝子型に基づき集団数を推定した結果,4つの集団の存在が支持されたが,これらの集団は移動個体と非移動個体の間の分化に対応するものではなかった.以上の結果から,異なる移動生態を示す琵琶湖産のスジエビは,ランダム交配する大きな集団内の生活史多型であることが示唆された.


日本生態学会