| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-109  (Poster presentation)

チリメンカワニナにおける汽水域への分布拡大の進化的制約

*吉田琴音, 高橋佑磨(千葉大学)

チリメンカワニナにおける汽水域への分布拡大の進化的制約
吉田琴音・高橋佑磨(千葉大・理)
生物は新規環境への適応を繰り返すことにより、分布域を拡大しつづける可能性があるが、現実には目立った物理的障壁がない場合でも、各生物種の分布は限定的である。このことは、分布の辺縁部では新たな適応が制限されていることを意味する。適応を制限する進化的な要因として、遺伝子流動の相反する2つの効果が知られている。すなわち、集団間の遺伝子流動が少ない場合には、多様性の枯渇が辺縁部での適応進化を制限し、遺伝子流動が多い場合には、辺縁部で環境にミスマッチな対立遺伝子の増加(移住荷重)によって適応進化が制限されるのである。河川では個体の積極的な遡上がない限り遺伝子流動が一方向的になると期待されるため、下流側では移住荷重が大きくなることで新たな局所適応や分布拡大が制限されている可能性がある。本研究では、河川に生息するチリメンカワニナ(Semisulcospira reiniana)を用いて、下流側の分布の限界における移住荷重による適応阻害や分布拡大の制限の可能性を検証した。河床勾配の異なる2つの河川(川内川と木曽川)で本種の生息密度を調査したところ、両河川とも淡水域の広範囲で生息が認められたが、汽水域に生息が確認されたのは勾配のゆるやかな木曽川のみであった。標高別に塩分耐性を比較したところ、木曽川の低標高地点の集団でのみ高い耐性が認められた。胎貝の形態幾何学的解析とサイズの比較を行なったところ、木曽川の下流の個体のみが塩分耐性の向上に貢献すると考えられる形質(殻口が小さく、サイズが大きい)をもつことがわかった。また、形態とサイズともに、急峻な川内川で集団内のばらつきが大きくなる傾向が認められ、急峻な河川ほど局所適応を妨げるような遺伝子流動が起きていることが示唆された。以上の結果は、下流域での適応阻害が移住荷重によって生じている可能性を示している。


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