| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-111 (Poster presentation)
外温性動物の異なる温度環境への適応進化の遺伝的基盤の解明は、その種分化機構と多様性を理解するためだけでなく、環境変動からのその保全という観点からも注目を集めている。本研究の対象生物であるアノールトカゲでは、しばしば近縁種間で生息温度環境が分化しており、種間比較によって温度適応機構を解明することができる有用なモデルである。本研究は、キューバアノールトカゲを対象に、温度環境への適応進化に関わる遺伝子配列の変異を調べるため、異なる温度環境への進出に伴って正の自然選択を受けた遺伝子を推定した。まず、異なる温度環境への進出が起きた系統樹上の分岐点を推定した結果、キューバアノールトカゲでは、森林内部の低温森林環境から森林外部の高温開放開放への進出が4回独立に起きたと推定された。次に、独立に高温開放環境に進出したと推定されたAnolis allisoniとAnolis sagreiにおいて、それぞれで正の自然選択を受けた遺伝子を検出した。その結果、両種で共通して、コラーゲン産生に関わるtgfb1において正の自然選択が検出された。さらに、コラーゲン産生に関わるその他の複数の遺伝子と、1型コラーゲンをコードする遺伝子においても、A. sagreiにおいて、正の自然選択が検出された。これらの結果は、キューバアノールトカゲにおいて高温開放環境への進出に伴って、コラーゲン産生に関わる遺伝子とコラーゲンの配列自体の適応進化が重要であったことを示唆している。気温と日照の強い環境において、コラーゲンの変性に対抗するような自然選択が遺伝子配列に起きたということが推測される。また、先行研究によって温度環境への適応との関連が示唆されている概日リズムと活動限界温度に関わる遺伝子配列における正の自然選択も検出した。これら遺伝子配列の進化も、高温開放環境への適応に重要な役割を果たした可能性がある。