| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-112  (Poster presentation)

複製速度と複製の正確さのトレードオフ存在下における突然変異率の進化ーシミュレーションによる解析ー

*青柳優太, 酒井聡樹(東北大・生命)

突然変異の多くは有害であり、突然変異率は低い方が良い。しかし、正確に複製するために複製エラーの修復を厳密に行うと複製速度が遅くなる。細菌やウイルスなどでは複製速度が速いほど増殖速度が速い。従って、複製速度と複製の正確さのトレードオフは、細菌やウイルスにおける突然変異率の進化を考える上で重要な視点である。本研究では、複製速度と複製の正確さのトレードオフの下で、突然変異率がどのように進化するのかという問題についてシミュレーションにより解析する。
 モデルでは、2分裂する1倍体単細胞生物を仮定した。そして個体毎に競争力遺伝子と修復力遺伝子を定めた。競争力遺伝子は個体間競争の強さに関わる。修復力遺伝子はエラー修復力と分裂間隔に関係する。分裂間隔が短いものほど増殖速度が速い。一方、修復力が大きいほど、分裂間隔が長く増殖速度が遅い。個体の分裂時に一定割合で競争力遺伝子又は修復力遺伝子に突然変異を起こし、競争力・修復力の値を増加又は減少させた。修復力の値が上昇すると分裂間隔も長くなり、低下すると分裂間隔も短くなる。ただし、個体の修復力の大きさに応じて有益・有害に関わりなく、突然変異の一部を修復することができる。この過程を繰り返し、競争力と修復力がどのように変化していくのかを見た。
 遺伝子数が少ない場合は、突然変異の数が少ないために有害変異の影響が小さい。競争力が減少したとしても致命的ではないため、修復力は大きくならず分裂間隔が短くなる。一方、遺伝子数が多い場合は、突然変異の数が多くなるため有害変異の影響が大きい。そのため、競争力の減少を抑えるために修復力が大きくなる。その代わり、分裂間隔も長くなる。
 複製速度と正確さのトレードオフ存在下では、有害変異の影響の大きさに応じて、突然変異率が高いが出来るだけ速く分裂するか、分裂速度は遅いが突然変異率が低いという異なる進化を示す。


日本生態学会