| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-113 (Poster presentation)
コウモリの聴覚系では、発した音(パルス)と対象に反射して返ってくる音(エコー)の差異情報を蝸牛と呼ばれる内耳の器官を経由して神経系へと伝達することで障害物を避け、獲物を捕捉するエコーロケーションを行っている。
音の振動を電子信号へ変換し神経系に伝達する蝸牛の頭骨に対する相対サイズは、コウモリの高周波音への特殊化との相関が認められており、エコーロケーションの進化を理解するための重要形質であるとされている。
分子進化学的研究からエコーロケーションはコウモリで単一起源ではなく独立の系統で複数回進化した可能性が近年指摘されている。単一起源か複数起源かを検証するためには蝸牛における収斂の有無の検討が重要であるが、これまでの研究では成体の形質のみに着目したものが多く、発生過程について比較した例がほとんどない。
そこで本研究はコウモリにおける網羅的な蝸牛発生比較の一環として、現生種の中で最も高度なエコーロケーションを有し、コウモリのなかで最も大きい蝸牛をもつとされるキクガシラコウモリの胎子期から成熟までの蝸牛発生を記載し、他の哺乳類種との比較を行った。
その結果、キクガシラコウモリでは蝸牛の形成タイミングが他の哺乳類や近縁のコウモリに比べて極めて早期化していることが分かった。また、近縁のコウモリを含めその他の哺乳類では出生前に蝸牛が成熟時のサイズに達するのに対し、キクガシラコウモリでは唯一、出生後も蝸牛サイズの拡大が性成熟まで続くことが分かった。
他の哺乳類や近縁のコウモリでも類例のないこの特異的発生によって、キクガシラコウモリに特徴的な大きいサイズの蝸牛が形成され、コウモリの中で最も洗練されたエコーロケーションを可能にしていることが示唆される。今後は、独立にエコーロケーションを獲得したと疑われる系統における蝸牛発生の分析を進め、コウモリにおけるエコーロケーションの進化過程について明らかにしたい。