| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-123  (Poster presentation)

マヤサンオサムシの交尾器形態の地理的変異は生殖的形質置換か?~雌雄両面からの検証~

*西村太良, 高見奏興(神戸大・人間発達環境)

種分化は生物多様性を生みだす根源的過程であり,生殖隔離はその重要な要因である.種分化の過程では,祖先種が異所的集団に分化した後,二次的接触による交雑が生じた時,交雑のコストを避けるような形質の分化(生殖的形質置換)が生じる可能性がある.オオオサムシ亜属は,雌雄交尾器の形態が種間,種内で著しく分化しており,集団間の交尾器形態の不一致が生殖隔離機構として働くことが知られている.マヤサンオサムシとイワワキオサムシは近縁で側所的に分布しており,マヤサンオサムシの交尾器形態には顕著な地理的変異がある.そこで本研究は,マヤサンオサムシの交尾器形態の地理的変異は生殖的形質置換によって生じたという仮説を検証することを目的とする.仮説が正しければ,イワワキオサムシと側所的なマヤサンオサムシ集団の交尾器は種間差が大きくなり,またその交尾器が機能する交尾後接合前の段階で交雑コストを回避していると予側される.
 マヤサンオサムシの雌雄交尾器形態の地理的変異を測定したところ,イワワキオサムシと側所的に分布している集団の方が種間差が大きかった.よって,交尾器形態の地理的変異は生殖的形質置換と整合的であった.また,雄の配偶者識別による交尾前の交雑コスト回避が,異所的および側所的な集団の一部で確認された.交尾後接合前の段階においては,側所的な集団で雌雄ともに種間交配の交尾時間(時間的ロス)が増加し,雄の交尾器損傷も一部確認されたことから,交雑コストが回避されているという証拠は得られなかった.
 本研究の結果から,マヤサンオサムシの交尾器形態の地理的変異は生殖的形質置換と整合的であることが確認されたが,側所的な集団の長い雌雄交尾器は必ずしも交雑コスト回避に寄与するわけではないことがわかった.このことは,マヤサンオサムシの交尾器形態の地理的変異の要因は,生殖的形質置換ではない可能性を示唆する.


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