| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-128 (Poster presentation)
精子は卵に辿り着き,受精するために特化した細胞である.その目的は単純であるにも関わらず,動物の精子形態は極めて多様である.精子の多様性を生む進化要因は,受精環境や精子競争など複数の要因が考えられるが,これまで精子の進化要因を明確に示した研究は少ない.
北太平洋を中心に約300種が知られる海産カジカ科魚類は極めて多彩な繁殖様式を持っており,近縁種間で交尾を行う種と行わない種が混在している.また,卵の保護様式も雄保護型,雌保護型,卵寄託型と様々である.本研究では,交尾をするかしないかによって生じる受精環境の違いと,卵の保護様式の違いから生じる精子競争レベルの違いが,精子の形態や運動性に与える影響とその関連性を系統種間比較によって調べた.
日本と北米で採集した計37種138個体3234個のカジカの精子を調べた結果,保護様式の違いにより生じる精子競争レベルの違いが精子の鞭毛長や游泳速度と関係しており,交尾型と非交尾型で精子の鞭毛長や遊泳速度に違いが無いことがわかった.これまで一般的に,交尾行動の進化によって精子が長くなると考えられていたが,近縁な本科を用いることで,交尾行動は精子の鞭毛長の進化要因とならないという新規の結果が得られた.一方で,精子が運動性を持つ環境と頭部形態,中片形態は交尾型と非交尾型で大きく異なった.交尾型の精子は体内と同じ等張液のみで運動性を持ち,逆に,非交尾型の精子は海水中のみ動いた.非交尾型は全て丸型,交尾型は全て細長型の頭部であり,細長型の精子は,粘性のある卵巣内でスムーズに前進できるためだと考えられた.日本と北米の種で共通する結果が得られたこと,また,分子系統樹を用いた系統種間比較解析から,本研究により,海産カジカ類の精子の形態や運動性は,系統に関係なく,交尾行動や精子競争に関係して平行進化したことを初めて示した.