| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-132  (Poster presentation)

福井県三方湖におけるヒシ分布の時空間動態と塩分濃度の関係:温暖化による海面水位上昇が淡水生植物に与える影響

*石川みくり(東大院・総合文化), 石井潤(里山里海湖研究所), 西廣淳(東邦大学理学部), 瀧本岳(東京大・農学部), 宇野文貴(東京大・農学部), 吉田丈人(東大院・総合文化)

 福井県の三方湖は、日本海に近い富栄養化が進んだ浅い湖である。淡水湖だが、湖の北西部で接続する汽水湖(水月湖)から時に汽水が流入する。2008年以降、三方湖では一年生浮葉植物のヒシが急増し、生態系管理上の課題となっている。効果的なヒシ管理を実現するためには、ヒシ分布の事前予測が望まれるが、そもそもヒシ分布の時空間動態が評価されていないのが現状である。本研究では、三方湖におけるヒシ分布の時空間動態を評価し、その動態をもたらす環境要因の解明を目的とした。

 2009~2017年の毎年夏季に撮影された湖の空中写真から、湖内のヒシ分布を抽出した地図をGISで作成し、湖面に対するヒシの占有面積率を算出するとともに、ヒシ分布の空間動態を可視化した。その結果、2010年には湖の北西部と南東部を除く全ての湖面にヒシが分布したが、2016年には湖の西部から湖心部にかけてヒシが顕著に消失したことなどが分かった。

 2016年春季に湖底における埋土種子の密度調査を行ったところ、湖の北西部と南東部では埋土種子は皆無であった。しかし、埋土種子密度が高かった地点でも、同年夏季に分布したヒシ群落は小さかった。そこで、ヒシ種子の発芽能を比較するための野外発芽実験を行った。2015年秋季にヒシ種子を採取および越冬保存し、発芽時期に当たる2016年4~6月に種子を湖底3地点に設置し、種子の運命(発芽、休眠、死亡)と同時に測定した湖水塩分濃度との関係を評価した。その結果、湖水塩分濃度が高いと発芽種子数は減少し、休眠種子数は増加することが分かり、湖水塩分によるヒシの初期成長抑制が原因だと考えられた。

 また、湖水塩分濃度には日本海潮位と流入河川水位の影響が重要であることが示された。今後、地球温暖化による日本海海面水位の上昇が懸念されていることから、三方湖への汽水流入が増えてヒシの生育が抑制される可能性が考えられる。


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