| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-133  (Poster presentation)

房総半島南部におけるアライグマの利用環境

*廣瀬未来, 長谷川雅美(東邦大学)

北中米原産のアライグマは世界各地に定着後、様々な問題を引き起こしており、生息密度が低い場合でも、高い捕食圧で希少生物の絶滅を加速させ、生態系に深刻な被害を与える。そのため、効果的な捕獲手法の確立が急務とされている。捕獲率を上昇させるためには、対象生物の生態・習性を熟知することが不可欠である。そこで本研究では、捕獲率の向上に寄与することを目的として、GPSトラッキングによって、アライグマの行動圏を把握し、利用環境の選好性を明らかにした上で、効果的な防除戦略について考察した。
 対象個体は、千葉県館山市・南房総市の雄のアライグマ4頭として、季節別の行動圏、日遊動距離を算出した。また、位置情報をアライグマの活動パタンに合わせて、1)活動環境、2)レストサイトの2つに分別し、選好性の検証、利用適地の分布予測を行った。
 行動圏・日遊動距離の結果から、本調査地の個体は原産地と比べて広い行動圏を有していることが分かった。さらに、冬は餌探索の時間を増加させて、エネルギーの確保を最大化させる採食戦略をとり、北米や北海道とは異なる冬の採食戦略をとることが示唆された。選好性の検証・適地予測の結果では、本調査地のアライグマは市街地を避け水田などで採餌・移動を行い、森林を休息場として利用することが分かった。また、標高の高い場所は適しておらず、山地の地形がアライグマの分散の障壁になりうることが示唆された。生態を考慮した効果的な防除戦略として、アライグマは活動パタンによって好む環境が異なっていたことから、活動環境の適地には餌を用いた罠を、レストサイトの適地には巣箱型の罠を設置することが効果的であると考える。その上、餌を用いた罠を設置することで、冬は広範囲に生息している個体を誘引出来る可能性があり、夏は行動範囲が狭いため、新鮮な痕跡情報をもとに捕獲地点を選定することをより重要視するべきであると考える。


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