| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-136  (Poster presentation)

農地景観における湿生植物の種子散布

*永田優(北大農学部), 森本淳子(北大院農学研究院), 櫻井善文((株)ドーコン), 木村浩二(雪印種苗(株)), 中村太士(北大院農学研究院)

人間による農地改変は湿地面積を減少させ、それに伴い湿地を利用する生物も減少している。湿地性生物の保全が求められる中、代替生息地として遊水地に期待が寄せられている。遊水地は、洪水を一時的に貯留する目的で造られるため、大面積で造成され、水の流入があるといった湿地再生に適した条件を持つ。遊水地ではしばしば、有効な土壌シードバンクが掘削により失われている。そのため、遊水地に湿地生態系の基盤となる湿地植生が成立するには、外部からの種子散布が必要である。しかし、農地景観に造成された遊水地では、種子供給源となる湿地から隔離しているため種子散布の機会が減少し、遊水地の植生形成に影響を及ぼしている可能性がある。本研究では、散布される種子の個体数と種組成を遊水地・残存湿地間で比較することによって、遊水地における種子散布の現状を明らかにすることを目的とした。

千歳川流域に存在する遊水地4地点と、残存湿地2地点において水・風・鳥散布種子の採集及びまきだし実験を行った。この結果をもとに、各散布方法における遊水地・残存湿地間での実生個体数の比較と、実生種組成の比較を行い、その違いを引き起こす原因として考えられる環境要因との関係を調べた。これらの結果を踏まえ、今後の適切な遊水地管理について考察した。

遊水地・残存湿地ともに、個体数と種数が最も多かった散布方法は水散布であった。したがって、遊水地における水散布経路である農業用水路の仕様に配慮することで安定した種子供給が望める。遊水地に水散布された種子には攪乱依存性の1~2年生植物が多く含まれており、安定した止水域に生育するタイプの多年生植物が多かった残存湿地とは大きく異なっていた。このことから、遊水地には残存湿地のような植生が再生することは困難であると考えられるが、攪乱依存種にとっては重要な生息地として機能することが期待できる。


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