| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-139 (Poster presentation)
乾燥地のような厳しい環境条件下では、正の植物間相互作用が植物群落の構造決定に重要な役割を果たす。なかでも促進効果は、環境修復の初期段階において幼植物の生育を保護するため、その活用が注目されている。しかし促進効果は状況依存的に変化しやすく、遷移の進行に伴う効果の変化や持続性において不明な点が多い。そこで本研究では、砂漠化した砂丘地において、砂丘固定植物であるマメ科潅木(Caragana microphylla)が、牧草として有用なイネ科多年草(Agropyron cristatum)の回復・維持に対して促進効果を発揮するかを検討した。
対象地の中国北部フルンボイル草原では、過放牧により流動化した砂丘に対し砂丘固定対策が実施されている。その内A. cristatumとC. microphyllaが同所的に分布している6砂丘を選定し、その下部に30m×30mのサイトを設けた。各サイトにて両種が共存するパッチ(潅木パッチ;C. microphyllaの被度は100%)およびその周辺1.5m内の近傍でA. cristatumのみが分布するパッチ(イネ科パッチ)を0.5m×0.5mで5箇所ずつ設置し、A. cristatumの被度、最大高、被食平均高、結実数、C. microphyllaの平均高、地表面の土壌水分および温度を測定した。その後パッチ間の差異および灌木の平均高と相関のある項目について検証した。
その結果、A. cristatumの最大高、被食平均高、結実数についてはイネ科パッチで有意に小さく、家畜の摂食の影響が認められた。またC. microphyllaの平均高と正の相関があったのはA. cristatumの最大高のみであった。このことから、潅木パッチ内ではA. cristatumは家畜の摂食を受けにくく、先端部のみの摂食に留まっているために一部の穂が残ることを示唆しており、その原因としてC. microphyllaの棘が家畜の摂食を阻害していると推察された。以上より、C. microphyllaは、遷移初期段階の看護効果とイネ科多年草の種子生産に関わる促進効果を通じ、有用飼料の持続的生産にも貢献することが示唆された。