| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-140 (Poster presentation)
外来生物の侵入は、在来生態系を衰退させる主要因のひとつである。外来生物の侵略性や導入ルートを推測する上で、分子生物学的アプローチは有効である。北アメリカ東部を原産とするカワマスは、ヨーロッパや日本を含む世界各地に導入されてきた。特に北アメリカ西部に導入されたカワマスは、絶滅危惧種であるブルトラウトやカット・スロート・トラウトを絶滅の危機に追いやっている。カワマスは日本にも導入されてきたが、野外で存続しているカワマス集団はわずか4流域にしかいない。本研究では、カワマスの侵略成功に影響しうる遺伝的特性を理解するために、日本4流域に棲むカワマスの遺伝的集団構造を調べた。
mtDNAとマイクロサテライト解析の結果、日本のカワマス集団の遺伝的多様性は低く、国内で二次的に導入されたと思われる集団の遺伝的多様性は特に低かった。ある流域内では、集団間の分散制限が強いためか、集団間でカワマスの遺伝的分化は大きく(Fst = 0.10-0.19)、ある集団では対立遺伝子の構造が約15年の間で大きく変化していた(Fst = 0.07)。以上のことから、分散制限の強さと乏しい遺伝的多様性が、日本で移入カワマスの侵略性が低い原因のひとつなのかもしれない。今後は、河川性魚類の侵略成功を左右する遺伝的メカニズムの解明を目指す上で、問題がより深刻化な北米西部のカワマス集団と比較する必要がある。