| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-149 (Poster presentation)
近年,日本各地でニホンジカの生息密度の増加と分布の拡大による自然植生の衰退が問題となっており,対策としてシカの個体数管理がいくつかの国立公園で進められている.生態系の保全を目的とした管理ではシカの密度の他に,シカと植生の関係を反映する指標が求められる.しかし,捕獲によりシカの密度を低下させることに成功した例は限られており,シカの密度低下に伴う植生の反応に関する知見は不十分である.
シカの密度に対する植生の反応は,その植生を構成する種それぞれの生態的な機能やシカとの種間関係によって異なる.また,シカの生息地の中には複数の植生タイプが存在し,植生タイプそれぞれのシカの利用形態や植物の生産性の違いのため,生態的な機能が類似している植物種群でもシカの密度低下後の反応は異なることが予想される.そこで本研究では個体数管理によってエゾシカが低密度維持されている北海道知床岬において,複数の植生タイプのシカの生息地利用及び,シカの密度低下後の草本植生の変化を評価した.
GPSによる行動追跡とGAMMを用いた植生の回復状況の解析の結果,草原環境はシカの選好性が高く,森林と比較して植生の回復が速かった.また草原環境では採食耐性の異なる植物群ごとに回復の速さに違いが見られた.草原環境における植生の速い回復の理由としては潜在的な植生の生産性が高いことや,エゾシカの主要な採餌対象であるため採食圧の影響を反映しやすいことが考えられた.そのため管理においては生産性やシカの採餌対象としての価値が高い植生タイプにおいて採食耐性の異なる植物群のセットを短~中期の時期別の指標とすることでより植生回復を評価できる可能性が示唆された.