| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-153 (Poster presentation)
ヤクシカ(Cervus nippon yakushimae)がどのような植物種を餌として利用しているかを調べるために、安房林道~宮之浦岳(標高78 m~1778 m)、白谷線(標高218 m~623 m)、および西部林道(標高28 m~352 m)で採集した計68個の糞試料からDNAを抽出し、糞に残存する餌植物種の葉緑体DNA断片(rbcL領域)を増幅して、次世代シークエンサーの利用によりその配列を決定した。これらの配列から、37種、39属、1科の植物を同定した。シカ個体ごとに餌植物を集計した結果、1個体あたり7 ~ 41(平均 18.8) 分類群の植物が検出された。頻出植物は、配列数が多い順にイチジク属、ブナ科、イノモトソウ属、チドメグサ属、ユズリハ属、タブノキ属、Nardia sp.、タチシノブ、サンショウソウ属、スギだった。安房林道~宮之浦岳では標高によって利用植物が異なり、標高1000 m 以下の低標高域ではブナ科やタブノキ属、イノモトソウ属、サンショウソウ属、イチジク属が主な頻出植物であったが、標高1000 m 以上の高標高域ではチドメグサ属、スギ、フタバムグラ属、ヒメシダ属が主な頻出植物となった。宮之浦岳登山路ではコケ類、グミ属(おそらくヤクシマグミ)が多く検出された。ユズリハ属は安房林道~宮之浦岳の全標高を通して多く検出された唯一の分類群であった。西部林道ではブナ科、イチジク属(おそらくアコウ)、イノモトソウ属、タブノキ属が、白谷線ではチドメグサ属、イノモトソウ属、タチシノブが頻出した。また、安房林道の低標高域と西部林道、白谷線において食性の組成から Bray – Curtis の非類似度に基づいたクラスタリングを行ったところ、西部林道は他の2 地域に比べサンプル間の類似性が高いことが分かった。ヤクシカは木本から草本、シダ植物、コケ類と多様な植物種を利用しているが、チドメグサ属やサンショウソウ属が頻出し、コケ植物も検出されたことから、小型の植物体にも依存していることが示唆された。