| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-155 (Poster presentation)
生態系サービスが実際に活用されるためには、自然資源が供給されるだけでなく、自然資源を利用する知識が必要である。日本では、経済成長や都市化の結果、日常生活における自然資源の利用や農林水産業従事者が減少し、生態系サービスを実際に利用するための知識の消失が懸念されている。本研究では、自然資源の利用方法について多くの記載がある「聞き書き甲子園」の記録を用いて、自然資源の多様性と生態系サービスとの関連を評価した。
「聞き書き甲子園」とは、NPO法人共存の森ネットワークが行っている活動である。毎年、全国から選ばれた高校生が、森・川・海の名人を訪ね、名人のもつ知識や技術、ものの考え方を聞き書きしている。本研究では、第1回から第13回までの森の名人1168人を対象とした聞き書きを用いて、記載されていた植物分類群とそれらが支える生態系サービスに関する知識を、聞き書きの記録から抽出した。
生態系サービスに関する知識は、全部で3966件あり、それらは402の植物分類群に支えられていた。そのうち195の植物分類群は、1種類の生態系サービスのみを支えていた。最も多くの種類の生態系サービスを支えていたのはスギとタケ類であり、22種類の生態系サービスを支えていた。1種類の生態系サービスのみを支えていた植物分類群のうち、158の分類群に関しては、1168人の内ある1人の名人だけがその知識を持っていた。限られた人のみが知っている稀少な知識の多くは、食糧や工芸品・飾り、生活雑貨についてのものだった。
以上の結果より、植物分類群には、多く種類の生態系サービスを支えているものと1種類の生態系サービスのみを支えているものが存在することが分かった。さらに、1人の名人のみが知っていた知識も多く、今後そのような知識が失われると、これまでと同様に生態系サービスを享受することができなくなる可能性がある。
(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費S-15の資金援助を受けた。