| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-156 (Poster presentation)
ヒガタアシSpartina alternifloraは,北米東部原産の塩性湿地に生育するイネ科の多年草で,世界でもっとも侵略的な種のひとつとされるSpartina anglicaの近縁種である.隣国の中国では,1970年代頃より産業利用目的で本種を意図的に導入してきたが,管理下から逸出し沿岸部を中心に分布を拡大させている.Guo et al. (2015) およびBernik et al. (2016) は,中国のヒガタアシ集団と原産地域集団との遺伝的構造を比較し,中国に導入された集団が計4つのハプロタイプに分けられることを報告した.わが国では2000年代中ごろに非意図的な侵入が確認されたが,侵入箇所は地理的に距離がある愛知県と熊本県のみである.また,これら2地域に侵入したヒガタアシがどこから侵入してきたのかや,これらが同一集団の個体であるのかなどについては不明である.そこで本研究では,日本におけるヒガタアシの侵入実態の解明に向けた基盤的研究として,国内集団の遺伝的構造を明らかにした.本種の侵入が確認されている両県の複数河川より試料を採集し,葉緑体DNAを対象とした塩基配列決定および核DNAを対象としたマイクロサテライト分析(11座)を実施した.各河川20個体程度の塩基配列を決定し,Blum et al. (2007)に記載されるハプロタイプと照合した結果,全て単一のC4というハプロタイプと一致した.本ハプロタイプは原産地域の北米では主に南東部,人為的導入地域の中国では沿岸地域の広域で確認されている.一方,貿易統計によれば,愛知県および熊本県内の港湾はともに,北米南東部より中国との貿易が盛んである.このことから,我が国に侵入したヒガタアシは,中国経由である可能性が示唆された.また,マイクロサテライト分析の結果から,侵入が確認された各河川はいずれも多様度が低く,ボトルネックの影響がみられた.さらに,STRUCTURE解析の結果から,愛知県の集団と熊本県の南北2集団が明瞭に異なるクラスターに帰属しており,各集団が独立して侵入したことが示唆された.